絵本デザイナーの本領発揮
2014年11月20日

店員は二人に様子を不思議そうに見守りながら、首をかしげる。
「既製品にはございませんが、オーダーなら、承ります」
「オーダー!」
デザイナー、奈美の目が光る。
「なになに、それって口頭でいいの?それともデザインのスケッチが必要?」
「あの、お客様は、デザイナーさんでいらっしゃいますか?」
奈美はうなずく。
「では、スケッチいただければ、間違いなく、同じデザインのものをご用意させてもらいます。あと、配色や生地の種類など、詳細もご指示いただければ幸いです」
祐介はあきれる。
「なんで、寝室だけ、オーダーメイドカーテンなんだよ」
「だって、他のカーテンはほぼ私のイメージ通りのものがあったから。それに、寝室ではいつも笑っていたいし」
「いつまで引っ張るつもりなんだ」
十数年経っても、このネタをひっぱることになろうとは、今の祐介も奈美も予想だにしていなかった。
生地だけ指定して、祐介の部屋に戻ってきた奈美はさっそくカーテンのデザインを始める。
奈美は自宅暮らしだったが、長い付き合いの間に、デザイン用品一式が祐介の部屋を占領していた。
「君がハマったツボがなんであれ、上品なデザインでお願いします」
祐介の言葉に、奈美はふくれる。
「私は絵本デザイナーよ。ロマンたっぷり、いい夢見そうなデザインにするからご心配なく!」
翌朝の日曜日。
奈美は夜を徹して、カーテンのデザインを仕上げたらしい。
スケッチ・ブックに、クレヨンで描かれた、そのデザインを見て、祐介は微笑んだ。
紺色の布地に、柔らかそうな白い羽根が透き通るように点在して描かれている。
カーテンの片隅には、やさしい目をした、美しい白い母鳥の姿。
その脇の下には、また毛も生えそろっていないヒナ鳥が3羽、ウトウトと幸せそうにまどろんでいる。
「奈美ちゃん、天才」
祐介は、テーブルでうつぶせて寝ている奈美の髪をそっとなでる。
奈美は、思い出し笑いか、くくくっと肩を震わせ笑っている。が、確かに眠っている。
祐介は溜息をつきながら、笑った。
「これからの君との毎日は、不思議な笑いでいっぱいになりそうだね」
Posted by 弘せりえ at 17:29│Comments(0)
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